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平成29年度高槻市感染症発生動向調査委員会
日時:平成30年2月2日(金曜日)15時00分から16時00分
場所:高槻市保健所
公開の可否:可
出席委員:浮村委員長、黒川副委員長、片岡委員、合田委員、千葉委員、松下委員、南委員、森定委員
下記のとおり
保健予防課
1.開会
事務局:皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます。
定刻となりましたので、平成29年度高槻市感染症発生動向調査委員会を始めさせていただきます。
(1)配付資料の確認
(2)保健所長の挨拶
(3)委員紹介
(4)委員長及び副委員長の選出
(5)傍聴希望者について(傍聴希望者はなし)
2.報告事項
(1)感染症発生動向調査事業の全数把握疾患の実績等について
委員長:感染症発生動向調査事業の全数把握疾患の実績等について、事務局から報告をお願いします。
事務局:(配付資料の4の1から6ページを報告)
結核を除く1から5類全数把握疾患の実績について報告させていただきます。
1類及び結核を除く2類の患者発生はありませんでした。3類感染症ですが、腸管出血性大腸菌感染症が6件あり、うち患者が4件、無症状病原体保有者が2件でした。溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発した症例が2件ありました。6件のうち1件に家族内感染事例がありましたが、残りの5件については、2次感染はありませんでした。4類感染症ですが、A型肝炎が1件で、患者は10歳以下の女児で5人家族でしたが、家族内感染はありませんでした。日本紅斑熱が1件で、患者が受診した市内の医療機関より相談があり、確定診断のために検体を保健所に提供していただき、保健所が大阪健康安全基盤研究所に検査依頼をしたところ、日本紅斑熱と診断されました。患者は登山をよくしており、その際にマダニに刺されたと推察されました。レジオネラ症が4件ありましたが、レジオネラは人から人へ感染することはなく、患者の周囲から新たな患者発生はありませんでした。2類感染症の結核ですが、罹患率の推移について、本市では平成24年までは減少傾向にあるなかで、23年には16.6と、初めて全国平均を下回り、24年は13.8とさらに減少しました。平成25年以降は増減を繰り返しながらも、27年には過去最低の13.1を記録しました。しかし、平成28年は16.8と増加に転じ、29年は暫定値ではありますが、16.5と横ばいの状況となっています。新規登録結核患者の活動性分類別の推移ですが、平成24年を除き、肺結核喀痰塗抹陽性者が多くを占めており、29年は、約47%となっています。新規登録結核患者の年代別推移ですが、平成20年以降は、70歳以上の高齢者が常に半数以上を占めており、29年は72.4%となっています。なお、全国的にも高齢者の割合は増加傾向にあります。患者の職業別では、高齢者層の偏在化に伴い、無職が最多を占めています。感染リスクを評価する喀痰塗抹検査の結果では、G1号から2号が最も多いものの、リスクが高いG3号以上の患者も一定数発生しています。感染リスクが低い時期での患者発見及び早期治療が重要です。患者が初めて医療機関を受診してから結核と診断されるまでの期間では、1ヶ月未満が半数ありますが、1ヶ月以上を要する事例の割合も増加しています。保健所では、医療機関での早期診断が重要であると考え、診断技術の向上を目指し医療機関を対象に結核講習会を毎年開催しています。さて、5類感染症のなかでも、近年増加傾向が続いている梅毒ですが、平成29年は国内の発生届の件数が最多となりました。国、大阪府、本市ともに2年前と比較して倍増しています。国では、平成24年に875件でしたが、29年には5,770件と6.6倍に、大阪府でも、24年は98件でしたが、29年には847件と8.6倍になっています。また、大阪府では、近年の4年間で女性の届出件数が顕著に増加しており、20歳代が届出件数のピークになっています。とりわけ、若い女性をターゲットにした対策が重要と思われます。
委員長:海外からの訪日客の増加により、これまで流行のなかった感染症の発生などが危惧され、今後も情報収集を含めた対策の強化が必要です。また、結核では本市の患者数に減少が見られない。とりわけ、高齢者の結核患者が多いという現状と課題があります。また、肺炎と診断した患者にキノロン系の薬剤を処方した場合、結核を併発していると、キノロン系の薬剤が症状を抑えるために結核の診断が遅れます。この点の注意喚起も必要と思われます。
(2)高槻市ウエストナイル熱媒介蚊サーベイランス事業の実績について
委員長:高槻市ウエストナイル熱媒介蚊サーベイランス事業の実績について、事務局から報告をお願いします。
事務局:(配付資料の4の7ページを報告)
平成29年6月から9月の間に2週間に1回の割合で合計7回、蚊を捕集し、蚊のウエストナイルウイルスの検出検査を実施しました。蚊の捕集場所は市の環境科学センターで、捕集した蚊の種類は、ヒトスジシマカ、アカイエカ群、コガタアカイエカ、シナハマダラカの4種類で677匹になります。ウエストナイルウイルス検査の結果は全て陰性でした。
委員長:ウエストナイルウイルス検査では、デング熱やジカ熱の原因ウイルスであるフラビウイルス属も検出できます。また、デング熱やジカ熱の媒介蚊であるヒトスジシマカの国内分布が北上しており、もうすぐ北海道まで到達するのではないかと言われています。蚊媒介感染症に対する注意が今後も必要です。
(3)高槻市感染症サーベイランス事業の実績について
委員長:それでは、次に高槻市感染症サーベイランス事業の実績について黒川委員から報告をお願いします。
黒川委員:(配付資料4の8から12ページを報告)
高槻市・島本町感染症サーベイランスですが、平成29年は合計16,407件の報告があり、一番多かったのが感染性胃腸炎の5,578件で、次いでインフルエンザの4,049件で、3番目がA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の2,467件になります。地区別の報告件数では、阿武野地区が8,317件と突出して多くなっています。阿武野地区を除く4地区の報告件数は、ほぼ同じになります。月別の件数ですが、感染性胃腸炎は月別の件数にあまり変化がありませんが、インフルエンザは、やはり、12月、1月、2月に多くなっています。また、手足口病とヘルパンギーナは6月から9月にかけて多くなっています。年齢別報告数ですが、感染性胃腸炎は1歳から6歳にかけて報告数のピークがあります。インフルエンザについては、3歳から9歳と、幼稚園から小学校の下級生にかけて報告数のピークがあります。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎についても、3歳から8歳と、幼稚園から小学校の下級生にかけて報告数のピークがあります。疾患別の報告数ですが、平成29年は感染性胃腸炎が1位でインフルエンザが2位となっており、毎年、この2疾患が上位を占めています。
(4)感染症発生動向調査事業の定点把握疾患の実績等について
委員長:それでは、次に感染症発生動向調査事業の定点把握疾患の実績等について事務局から報告をお願いします。
事務局:(配付資料4の13ページから21ページを報告)
平成28年と29年の本市の5類感染症の定点報告疾患の届出件数について特徴的なのは、手足口病が28年の92件から29年は398件と4.3倍に増加しています。
流行性耳下腺炎は平成28年の504件から29年は167件と約3分の1に減少しています。インフルエンザは平成28年の2,769件から29年は1,882件と約3分の2に減少しています。マイコプラズマ肺炎は平成28年の219件から29年は38件と約7分の1に減少しています。続いて、大阪府内における各疾患の週別届出件数ですが、流行性耳下腺炎の届出件数が、平成29年は28年に比べて大幅に減少し、そのまま年末まで減少傾向が続いています。手足口病ですが、平成28年に比べて29年は6月から8月のピーク時の件数が突出しています。インフルエンザについては、平成28年と29年のピークの高さはほぼ同じですが、ピークの時期に相違があり、28年は春先まで流行が続いていました。RSウイルス感染症については、平成29年は、28年に比べて8月頃から増加傾向が見られ、例年の流行期にあたる10月頃の増加が危惧されましたが、9月頃をピークに減少傾向が続いています。感染性胃腸炎の流行状況ですが、例年11月から12月にかけて大きな流行がみられますが、平成29年は大きな流行は見られませんでした。インフルエンザの流行状況ですが、週別の定点あたり報告数では、2015/16シーズンは流行が春先まで続いたことがわかります。今シーズンは、注意報レベル基準値である定点あたり報告数「10」を超えたのが、国は昨年の51週目、大阪府は昨年の52週目、本市は今年の2週目であり、昨シーズンより2週間程度早く、今年の3週目には、国、大阪府、本市ともに最近の3シーズンで一番高い報告数となりました。今後の流行状況に注意が必要です。また、インフルエンザのウイルス別については、昨シーズン(2016/17シーズン)は、ほぼAH3型が占めており、流行の後半になるとB型が検出されています。今シーズン(2017/18シーズン)は、一昨年のシーズン(2015/16シーズン)と同様に、AH1pdm09型が主流になっており、後半にかけてB型が検出されています。
委員長:今シーズンはB型の流行時期が早く、A型の流行時期と重なったのが流行拡大の要因の一つと考えられます。また、A型にもB型にも罹患する人がいると聞いています。
3.CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症)について
委員長:薬剤耐性菌に関する対策については、近年、国が力を入れて取り組んでいるところで、この度、中央社会保険医療協議会から感染防止加算として、地域の医療連携に対して加算されるようになります。また、小児科では感冒や急性胃腸炎に対し、抗生物質を処方しないと加点されるという案が示されています。特にCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症)については、昨年4月に通知が出され、発生届のあった全数を遺伝子検査することになり、CREについて報告させていただきます。院内感染は、患者が入院して48時間以降に発生した感染症が対象になると定義されています。以前は薬剤耐性菌は医療機関内で多く認められるものと思われていましたが、最近はCREやESBLなどのプラスミド伝播による多剤耐性菌が市中から持ち込まれるということが増えており、医療現場では大きな問題となっています。またアウトブレイクについては、普段のベースラインを把握していないと判断することが非常に困難です。なお、CRE、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌、多剤耐性緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌、薬剤耐性アシネトバクター菌などは、保菌者も発症者と同じように考えることになっています。耐性化の機序にはいくつかありますが、耐性遺伝子によるものが注目されており、Amblerの分類が有名ですが、クラスBはカルバペネムを分解するものとして分類されています。問題なのは、耐性遺伝子を持っている菌から、耐性遺伝子を持っていない別の菌にプラスミドの伝播という形で耐性遺伝子が渡される場合であり、ある患者の大腸菌からCREが検出され、違う患者の肺炎桿菌からCREが検出された場合、実は、これがアウトブレイクであったという事例が報告されています。また、大阪で流行しているIMP6に関して、感受性試験ではカルバペネムが効くと報告されますが、実は耐性であることも問題とされています。国の基準ではCREと診断される菌のなかでも耐性遺伝子を持っていない菌があります。このように耐性遺伝子を持たないが、国の基準ではCREと診断される菌の比率が相当数認められ、耐性遺伝子の有無で対策を変えるか否かが議論となっています。実際に細菌検査室等では各種の工夫をして薬剤感受性検査を実施しているものの、耐性遺伝子を持たない菌をCREと診断する場合があるので、CREの診断には遺伝子検査を実施すべきという流れになってきています。欧米では南欧の状況が悪化し、ギリシャでは肺炎桿菌の7割がカルバペネムが効かないという状況になっています。そこで、わが国のアクションプランでは、カルバペネムの耐性率を0.2%以下に維持するという目標を掲げています。2016年に大阪府内の介護施設にいる患者さんのオムツの便を収集し遺伝子検査をしたところ、11%がCPE(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌)であったという結果が報告されています。また、ある施設内での患者のオムツの便を遺伝子検査したところ、CPEが検出されたので、他の患者やスタッフの便を遺伝子検査したところ同一遺伝子が検出され、水平伝播があったということが証明され、菌の耐性遺伝子や遺伝型まで検査しないと水平伝播の有無が分からないのが実際です。今後は保菌者に対する対策をどうするのか、また、地域的にも大阪や広島に保菌者が多いと言われていますが、愛知県でもアウトブレイクの事例が報告されており、東日本にも広がりつつあるのではと危惧されています。また、NICUにおける新生児への感染についても危惧されます。さらにNICUで新生児が感染した場合、新生児は保菌者となり、その後、幼稚園や保育園において感染拡大することが危惧されます。今後は、感染制御と抗生物質の適正使用を両輪として耐性菌対策を行っていかなければなりません。
4.閉会
委員長:それでは、閉会にあたりご挨拶させていただきます。国では抗菌薬の適正使用について強く推進しており、適正使用に対する診療報酬点数の加算という動きもあります。現状では、感染症の専門家といわれる医師は少なく、今後は薬剤師、検査技師、看護師などとのチーム医療のなかで対策を取っていかなければ、これからの耐性菌が増加していくという時代(2050年には世界中のがん死亡者数が年間820万人と推察されていますが、耐性菌による死亡者数は年間1,000万人になると言われており、そのうち500万人がアジアです。)において、しっかりと国内の対策を実施していくことが重要です。そのためには、サーベイランスを実施して実態を正確に把握するということが第一歩になりますので、今後、本委員会の重要性はさらに増すのではないかと考えます。これをもちまして私の閉会の挨拶とさせていただきます。